精神科の病気は、心の問題と思われがちですが、その治療では、薬を使った治療や対話を通じた治療、症状がよくなれば社会復帰の支援と、様々な専門職がそれぞれの領域で患者さんの治療やサポートを行っていきます。今回は、その基盤ともいえるBio-Psycho-Socialモデル(生物・心理・社会モデル:BPSモデル)について説明したいと思います。
BPSモデルは1970年代にEngelという精神科医が提唱したモデルです。それまでの病気の理解としては、Biomedical Model(生物医学モデル)という「病気の原因→疾患・障害」という直線的な因果関係が想定されていました。
しかしながら、このモデルでは病気の原因は1つのため、治療の選択肢も1つであったり、慢性の病気など原因が一つに特定できない病気については十分に説明できないといった問題点がありました。
こうした中で、登場したのがBPSモデルです。患者さんを、遺伝子や体の構造などの生物学的な面、気分や行動といった心理学的な面、生活する社会や文化などの社会的な面という3つの側面から包括的にとらえるというモデルです。
3つの側面それぞれからアセスメント(評価)を行うことで、問題を様々な視点からとらえ、治療や支援を検討・実行するための枠組みであり、精神疾患だけではなく、がんなどの身体疾患を抱える患者さんへのケアにおいても活用されています。
例えば、うつ病を例にして考えてみましょう。うつ病は脳の機能異常によるものと言われ、セロトニンと呼ばれる神経伝達物質がうまく働いていない状態です(生物学的側面)。
また、うつ病の方に特徴的な「否定的な考え」があり(心理学的側面)、こうした考えを引き起こすきっかけとして、職場のストレスや人間関係などのストレスが大きく影響しています(社会学的側面)。
うつ病になると仕事に行ったり、家事をしたりといったことが難しくなり、日常生活にも大きな支障がでます。そのため、抗うつ薬といったお薬の治療や、精神療法・心理療法を用いた心の側面へのアプローチ、日常生活や生活環境を整えるためのソーシャルワークという、多面的な治療・サポートが必要なのです。
こうした治療・サポートは、一人の専門職ではできません。医師や看護師、薬剤師、心理師(心理士)、作業療法士、精神保健福祉士など、様々な専門家がチームで行うからこそできる「全人的なケア」でもあります。近年では、医療の領域で「多職種連携」が重視されるようになりました。BPSモデルはこの多職種連携を実践する基盤なのかもしれません。
水戸メンタルクリニック 臨床心理士/公認心理師 中澤
参考論文など
Deacon, B.J. (2013). The biomedical model of mental disorder: a critical analysis of its validity, utility, and effects on psychotherapy research. Clin Psychol Rev.33(7):846-61. doi: 10.1016/j.cpr.2012.09.007.
平井啓. (2018). がん患者へのBio-Psycho-Social Modelによるケア.Jpn J Pshosom Med, 58-213-236.
熊野宏昭・鈴木伸一・下山晴彦著(2017)臨床心理フロンティアシリーズ 認知行動療法入門 講談社
中前貴. (2010). 精神医学における生物・心理・社会モデルの今後の展望について. 精神神経学雑誌, 112, 171-174.
鈴木貴之.(2018).バイオサイコソーシャルモデルと精神医学の統合. 精神神経学雑誌, 120, (9), 759-765.