心の不調の成り立ちにアプローチ。ストレスに起因する心の病の治療
過去の経験なども踏まえ、患者自身のストレスに対する適応力を高め、不調の再発を防ぐことをめざす

ストレス社会と言われる現代、仕事上の対人関係などで悩みを抱え、その心のつらさから会社に行けなくなってしまうなど、社会生活に支障を来すケースが多くなってきています。ストレスのもととなる出来事は誰しもが経験し、多くの人がどうにか乗り切って日々を過ごしているだけに、つらさを抱えていても人に相談できず、ギリギリまで自分なりに適応に努めた末に、疲れ果てた状態で医療に救いを求める患者も多くいます。
渋谷区の北参道こころの診療所には、適応障害や自律神経失調症、うつ病など、働き盛りの世代を中心に多くの人が相談に訪れています。
ストレスと心の不調の成り立ちにアプローチする方針で診療にあたっている高野晶先生に、ストレスとの向き合い方や診療の進め方について聞いてみました。
Q.ストレスと心の不調はどのように関係しているのでしょうか?

ストレスは一般的に環境の変化に伴って発生します。例えば就職、結婚、出産といった大きなライフイベントや、身近な人が亡くなるなどの人生で起きる変化、事故や事件などトラウマを残すような出来事が挙げられます。一方で、上司の攻撃的な発言や隣家の騒音など、もっと日常的な経験の積み重ねがストレスになることもあります。ストレスのもとになるものの大きさや慢性化が、受ける側の適応力の範囲を超えてしまった場合、会社に行こうとすると動けなくなるなど、心のつらさから何らかの症状が現れます。ストレスへの適応力はその人の性格や取り巻く環境によって異なりますから、ストレス要因となる出来事と併せて丁寧に見極める必要があります。
Q.ストレスに起因する疾患にはどのようなものがありますか?

適応障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)が代表格ですが、うつ病や統合失調症などほとんどの精神疾患において、過剰なストレスが発症のきっかけや悪化要因になります。最近では、いわゆる「コロナうつ」が話題となり、人との接触の機会が減ったり、絶たれたりすることが大きなストレスになることが注目されています。その一方で、リモートワークになって楽になったという方も少なくありません。現代は人との関わり方において、「うまくやらなければ」と感じすぎる傾向にあり、当院の患者さんの中でも、職場で人とどう接するか、どう対処すべきかといったところで苦しくなってしまう方が非常に多いと感じます。
Q.どのようなアプローチで診療されているのでしょうか?

PTSDのような深刻なトラウマを伴う場合は別として、一般的なケースでは症状の経緯と、その方を取り巻く職場や家庭の環境などをまず詳しく伺います。そしてストレスのもとだと感じている要因、それに適応するために行ってきた自分なりの対処についてお話しいただきます。また、同様の苦しかった経験が過去にもあるかにも着目します。過去の経験から、対人関係の持ち方、自己評価のありよう、あるいは親子関係など、現在に至るまでのその方の「成り立ち」に目を向けることによって、ストレス状況に置かれたときにつらくなる仕組みが徐々にわかってくるケースが多くあります。
Q.診療を行うにあたって、意識していることはありますか?

今の症状に対処するだけでは本質を捉えていない場合もあります。ストレスや不調がどのようにして起きているのか、その「成り立ち」を医師である私が知ると同時に、ご本人が理解することで、同様の心の不調の再発を防ぐこともめざしています。そうした意味では、患者さんご本人の適応力を高めることに主眼を置く診療と言えるかもしれません。ただし、その方の対人関係や過去の経験なども幅広く伺う中で、過去を掘り起こすだけで今起きているつらさが手つかずにならないよう、医師がどこに焦点づけするかというのが、非常に大事なポイントです。生育の環境などにふれつつも大人になって以降の経験に焦点を当てる聴き方を心がけています。
Q.患者側はどのようにストレスと向き合っていけばいいでしょうか?

生活を見つめ直す過程で「偏りを可視化する」具体的な方法をとることをお勧めします。例えば曜日ごとに1日をどう過ごしているかチャートに表し、その時の気持ちや調子なども書き出せば、自分を少し客観的に捉える助けになるでしょう。また、ストレスでつらい症状を抱える方は、生活上の細かな作業がおろそかになり、そこでまた自分を責めて余計に気持ちがふさぎがちです。ストレスの大本の解決には時間がかかるかもしれませんが、ごみを捨てる、たまったメールのいくつかに簡単でいいから返信するなど、身近なところから片づけると少し前向きになれます。うまく気分転換を図りながら、できる範囲で行動を起こしてみてはいかがでしょうか。
患者さんにメッセージを。
心療内科や精神科のクリニックを受診するのは、初めてなら少し勇気がいるでしょう。当院には上司や職場の医師の勧めで来院される方も多いのですが、最初は「自分は病気なのだろうか」といった不安感をお持ちの方も少なくありません。当院では精神分析的な観点を生かして診療を行っており、じっくり時間をかけて問診させていただく中で、患者さんのつらい症状の成り立ちを一つ一つひもといていきます。必ずとも薬を飲まなければいけないとは限りませんし、1回の相談だけで気持ちが軽くなることもあります。自分のことを客観的に考えてみたいと思ったら、つらくなる前に気軽に足を運んでいただきたいですね。
