院長より皆様へ
いまの時代、心の不調に関して相談したり治療を受けたりしやすくなってきたことは、とても望ましいことだと思います。実際、例えば「うつ」という言葉はだいぶ社会の中で一般的になってきました。そして効果の認められた薬などの治療法が、ほどよく使われてきています。
しかし「うつ」が指し示すものはとても多様だと私は感じています。現代の医療の標準となっているのは、多数の患者さんに対して、ある治療法やあるお薬を使った結果、使わなかった時に比べてこれだけ多くの人が良くなったという数量的な見方、つまりEvidence Based Medicine(証拠に基づいた医療)の考え方です。
でも、この多様な「うつ」の患者さん達の中には、同じような画一的な治療をしても良くならない方もたくさんいらっしゃいます。一般的に効果があると証明された治療法は基本としてとても重要ですが、それでやってみてうまくいかない患者さん達に対して何ができるのでしょうか。日々の診療においてはそこに目を配り続けることが最も重要なことの一つだと私は感じています。そして私たちは、それぞれの患者さんの治療過程に寄り添い、ともに考えていきたいと思います。
そもそも「うつ」になる人にはそれぞれ理由があることがほとんどです。それらの理由は「他の人だって同じだから」とか「たいしたことはないから」と無視されていることも多々ありますが、実はその人が生きてきたそれぞれの人生において、何らかの特別な意味があることかもしれません。その意味を見出せた時、その人の生き方や他人との関わり方、考え方の根本をかえりみる機会が訪れることになります。そしてその内省はその人のその後の人生を、つらいことがあったとしても実りある豊かなものにするかもしれません。私たちはその探索の旅路を手助けしたいと考えています。
北参道こころの診療所院長 庄司 剛